バック・トゥ・ザ・ファースト





雨がひどい。
朝はやや小ぶりで、午後にはそれがまだ続くか
もしくは雨がやんでいるかと思ったのだが
実際にはその二つの予想ではなく、
雨はひどくなる一方であった。

――はやく帰りたいわ。

水溜りの波紋が、生まれては消えていく。
街にはいつもはこれでもかという人数が行き交っているのに
今は恐ろしいほど閑散としている。
聞こえるのは、彼女が歩くたびに地面の水と触れる音と
水溜りに生まれる波紋の音のみである。

ゆら「…ひどい雨ねぇ」

ポツリとつぶやく。
こんな雨の中に外出するような人はいない。
しかし、冷蔵庫の中身を空っぽにしておくわけにもいかなかったので
こうして片手にこうもり傘を持ち、
片手に買い物袋と、冷蔵庫に入るであろう物を持って
たまゆらは閑散とした街の道を歩いている途中だった。

ゆら「こんなことになるんだったら、
   午前中にパッパと済ましておくべきだったわ」

今更言っても遅いのだが、こう言わなくては
この水の地面の上を歩いてはいられなかった。

しだいに、雨はひどくなっていく一方だ。
道路に通る車も少なくなってきた。
まるで雨の中に唯一人、取り残されたような気分になった。


空でうねる音が聞こえる。
ゴロゴロと、雲の上で激しい振動のように。
しばらくして、視界がカッと白くなる。


ゆら(私、雷は嫌いなのに…)


どうやら雷様は彼女にいたずらをしたくて仕方が無いらしい。
多分、雲の上で彼女の反応を楽しんでいるのだろう。
嫌味なお方だ、と彼女は内心つぶやく。


もう二、三度うねる音が響く。
さっきよりも大きい音だ。
いつもの通り、カッと視界が一瞬白くなる。

そして、目の前の景色は。





ゆら「おかしいわね…」

どう考えてもおかしい。
さっきまで降り続いていた雨はやんで、空は青々としている。
周りの建物は、よくよく見れば
カラフルに並んだビルから、コンクリート特有の
灰色むき出しのビルが並んでいるように見える。

道にでも迷ったのだろうか。
それにしてはずいぶんおかしい点がたくさんあるが、とにかく
大通りに出て、それから考えることにした。


大通り。
車の通りが急がしい。
ふと、一つの電光掲示板に流れる文字が目に入った。


信じられなかった。





「drummania 本日稼動開始!」


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