How do you feel?

・学校設定で恋愛要素があるため、苦手な方はスルー推奨
・この注意書きを読んでからそれについて文句を言うならR#1赤OPスパ乱の刑。


「はあぁ…先輩…今日もカッコいい……」

夕暮れ間近のギタドラ市内の高校。
樹の陰に隠れるようにして、いわゆる一昔前のスポ根モノの定番とも言える状態でグランドの方を見ている少女がいた。

『How do you feel?』

彼女の名前はHow do you feel?といい、新興住宅地のV4区が建設された時にこの市内に引っ越してきた。
…とは言え、手続き上でゴタゴタがあったせいで実際に彼女が学校に通い始めたのは引っ越してきてから暫く経ってからであった。

そんな彼女だが、冒頭の様子から察して頂ける様に今は恋をしている最中である。
もっとも、こんな風にして木陰から見つめるしか出来ない一方的な恋…つまるところは片想いなのだが。
そして彼女が想いを寄せている相手というのが…

「おっし、じゃあ今日はこの辺で上がるか!しっかりクールダウンしとけよ!」
「ういーす、お疲れっしたー!」

と、グランドの中央で練習をしていた陸上部の部長である。
彼は校内随一のスプリンターで、次の大会でも活躍を期待されている選手でもあった。

「ああR#1先輩…この気持ち伝えたい…。でも…」

くどいようだが彼女は恋をしている。
でも、告白する勇気が出ずにただ陰から見ているだけ。
それしか出来ない自分に苛立ちながらも、彼女は無理矢理自分を納得させていた。

「…フラれるのは、怖い…」

そう。彼女はフラれる事を恐れていた。
行動して失敗するくらいなら、この気持ちは墓場まで持っていこう。
最近の彼女はそう思うようにすらなっていた。


「先輩、付き合ってる人とかいるのかな…多分いるんだろうな…カッコいいし、人気あるし…」

その日の帰り道、彼女はため息をつきながら憧れの先輩の事を思い出していた…



そんなことが一週間ほど続いたある日、彼女にとって思いがけない転機が訪れた。

「あれ…?先輩、今日はいないなぁ…。どうしたんだろ…?」

夕焼けの放課後。
いつもの様に練習中のR#1を木陰から見つめるつもりの彼女だったが、今日は肝心のR#1がグランドにいないのだ。
暫く待ってみたが彼が来る気配はない。

「先輩がいないなら帰ろう…

……きゃっ!あいたたた…」

そう呟いて踵を返した彼女だったが、目の前に突如現れた人物におもいっきりぶつかって尻餅をついてしまった。

「あ、悪い悪い…大丈夫?立てるか?」
「は、はい!大丈夫で…す!?」

差し出された手に捕まって立ち上がり、その声に顔をあげた彼女は自分の前で手を差し出している人物こそ、憧れのR#1本人であることに気付いた。

そう。彼女は全くの偶然とは言え、いきなり意中の人と手を繋いでいたのだ。
突然降って湧いた出来事に、一瞬にして彼女の顔は真っ赤に染まっていた。

「大丈夫なら良かったよ。…君、How do you feel?さんだろ?
帰るところだったなら、ちょっと遅かったかな?今日は委員会で少し遅くなっちまったんだけど…」

「は、はい…。え…?あ、あの、どうして私が先輩を待ってたって…」

R#1の予想外の言葉に、彼女は何が何だか分からない、といった様子で彼に聞き返した。

「ははは…やっぱ本人は気付いてなかったか。陸上部じゃ有名だぜ?ずっと俺のことをここから見てる健気な可愛い女の子がいるって」

「………っ!!」

先輩が自分の事を知っていた。
しかも、何をしていたかも、知っていた。

…想いを伝える絶好のチャンスだ。
一世一代の勇気を振り絞るのは今しかない。失敗してもいい。今言わなかったら絶対に後悔する、と彼女は直感した。

「あ…あのっ!」
「ん?ど、どうかしたかい?」

意を決して彼女は口を開いた。
思った以上に裏返った声。口の中も渇いている。
R#1はそんな彼女の様子に一瞬驚いたようだったが、すぐにまたいつも通りに戻った。
しかし、彼はじっと佇んだまま彼女の言葉を待っているようにも見える。
How do you feel?は息を吸い込むと、一気に想いをぶちまけた。

「わ、私…先輩の事をずっと見てました!
迷惑かもしれませんけど、私、先輩の事が…!」

最後の肝心なところを言おうとした時、R#1が彼女の言葉を遮るように手で制した。
やっぱり駄目なんだ。うつむいて黙りこんだ彼女の目に、涙が溜っていく。

「…いくら何でも、女の子にそれを言わせる訳にはいかない。
…ここからは俺に言わせてくれ」
「…え…?」

R#1の言葉に、彼女は再び顔をあげた。
心なしか彼の顔が赤い気がするが、決して夕日のせいと言うわけではないだろう。

「…君がずっと俺を見つめていた、って知った時さ。凄い恥ずかしかった。けど、凄い嬉しかったんだ」

R#1は照れ臭いのか、敢えてHow do you feel?から視線を逸らす様にして言葉を続けた。

「君が毎日練習を見に来てくれてる、って考えただけで、妙に頑張れてさ。

…俺も、君のことが好きだ。俺で良かったら、俺と、付き合ってくれないか?」

彼自身こういったことに慣れていないのか、真っ赤になった顔を背けながら右手を差し出した。
その手は明らかに緊張で震えているのが見て取れた。

「…先輩……先輩ぃぃっ!」
「おわっ!?」

感極まったのか、How do you feel?は差し出された手を取らず、そのままR#1に抱きついた。
そして、彼の胸でわんわん声をあげて泣きじゃくった。

「私、怖かった…!先輩に断られるのが、嫌われるのが、怖かった…!」

そんな彼女にR#1は驚きつつも、ぎゅっと抱き締め返した。
彼女が泣きやむまで彼は文句一つ言わず、ずっと彼女の頭を優しく撫でていた…。


愛を伝える言葉は勿論、
「私はあなたが好きです」
―I love you.

そして、分かり切っているが故に省略されている言葉は
「貴方は、どう思っていますか?」
―How do you feel?

内気な少女が振り絞った勇気が、大きな一歩に繋がった。
そんなささやかな恋のお話。


戻る。