私の弟(100秒・子供の落書き帳)


「ぼく、おっきくなったら絵描きさんになるんだー!」


私の弟はいつもそう言っていました。
普通の男の子なら、車とか恐竜のおもちゃとか、あるいは外で友達と走り回ったり。
そういう風に遊ぶんではないのかしらといつも思っていました。


「見て見て!お花だよ!ぼくが描いたんだよ!」

でもあの子の手にはいつも色鉛筆と落書き帳。
車や恐竜のおもちゃや友達と外で遊ぶことはあっても、専らそんなものは彼の絵の題材になるしかなかったのです。

彼に友達はいません。友達にとっては、絵なんてものはつまらないものだったのでしょう。
最初は遊んでくれていた友達も、絵を描いてばかりの弟から段々と離れていきました。
しかし、友達が居なくとも彼は気にせず飽きることなくひたすらに絵を描き続けていました。

私が彼にいつもの留守番を頼んでプレイヤーとの戦いから帰ってきたときだって、もう日は沈みかけていて、
薄明るい赤い夕闇が辺りを包んだ頃にも構わずに床に頬肘をつき絵を描いていました。
彼の周りには描き散らかした紙が落ちていました。
その時は私が眼が悪くなるからもう止めなさいと少々きつく叱ったほどです。

彼はそれくらい絵を愛して止みませんでした。彼は孤独でしたが純粋でした。

ですが、いつも彼は寝る前に私に心の内をこぼします。

「ぼく、留守番するの疲れたなぁ、りーすとがいる場所にいきたいなぁ。」

そのたびに私は彼を諭します。まだ幼い弟にプレイヤーとの戦いは過酷だと思ったのです。



ある日、私は彼が絵を描いているのを眺めていました。

すると不思議なことが起こりました。彼の落書き帳に描いた絵が落書き帳から独りでに飛び出して動き出したのです。
それには彼自身も驚きを隠せないようでした。

そういえばいつだったかの朝、彼はおかしな夢を見たと私に教えてくれたことを思い出しました。


「なんかね、鬼みたいなこわーい女の人が追いかけてきて、ぼくのことを捕まえようとするんだ。
でもね、ぼくの落書き帳に描いた絵が勝手に動いてこわい女の人を追い払ってくれたんだ!」


私たちの血筋は特殊能力を持っていることが多く、どうやら彼もその一人だったようです。


「りーすと!ぼくこれでこわい人を追い払えるよ!ぼく大丈夫だよ!」

嬉しげに彼は飛び出した"生きている絵"とはしゃいでいました。

静かに私は確信しました。やはり彼なら大丈夫かもしれない、と。

―――――――――

「やったぁ!りーすと!また一人やっつけたよ〜」


あれから彼はなんとアンコール曲になり、日々絵描きへの修行を積みつつ、プレイヤーと遊んでいます。

一人で絵を描いてたときよりも、私の目にはよっぽど生き生きしているようにみえました。

彼にもし何かがあったら私が守ってやれば良いのです。本当に連れてきてよかったと思っています。



彼の夢の中で出てきた「こわい女の人」が現れるのは、また少し後の話。



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