door(3)
<<EMERGENCY…ENCORE STAGE出現…ENCORE曲ハ直チニ、レベルEXTREMEデ、迎エ撃テ…>>
突然、思考を止めるサイレンが鳴り響く。
さっきのブザーよりもずっと耳障りだ。頭が痛い。
何かまずいことが起こっていることは容易に想像出来た。
「フィンの奴…」
無口な青年が、落胆したようにボソリと呟く。
それとほぼ同時に、扉の鍵がカチリと音を立てて外れた。
先程までぴくりともしなかった扉。
ドアノブを恐る恐る回すと、扉は鈍い音を立てながらゆっくりと開いた。
初めて見る扉の向こう側。
まっすぐまっすぐ、廊下が伸びている。
そこに立つ、細身で背の高い青年。彼が「ゼア」なのだろうか。
青年は足下まで隠れる黒いローブを着ている。
頭に被ったフードは目元まで覆っていて、青年の顔を把握することは出来ない。
ただ、フードの隙間から淡い黄金色の長髪がさらさら揺れるのが見て取れた。
「あなたが、ゼアさん?」
「話は後でしよう。今はフィンに勝った人間がお待ち兼ねだ」
付いて来て、と言う青年は廊下の先を指差す。そして歩き出した。
私は状況が飲み込めないまま青年に付いて行った。
「見ず知らずの君をいきなりEXTREMEで指名するんだ、結構強いと思うよ。気をつけて」
コンパスの長い青年の早歩きに付いて行くため、私は自然と小走りになっていた。
「え…EXTREMEって…何ですか?」
私はこの世界のことを何も知らない。
神と二人の護衛、そして私。
それ以外、何も…。
「とにかく本気で相手をすればいい。手加減なんか要らない。君の本当の力を、人間に見せるんだ」
廊下の行き止まりまで来ると、さぁと青年は私をエスコートする。
扉は、開かれた。
扉の向こうは、薄暗い部屋だった。
ばたん。
扉が閉まると、ぼんやりとした人間の輪郭が浮かび上がる。
そして部屋の隅の方で、私よりもやや小柄な少年がぐったりとしているのが視界に入った。
「パースト…さ、ん…」
少年の口が動いた。掠れてはいるが、扉の向こうから聞こえていた声と同じ。
紛れもなく、フィンの声だ。
「フィン…!」
私は少年の傍らにしゃがんで、その顔を覗き込んだ。
少年はしっかりした顔立ちをしている。頬や額にはいくつもの擦り傷があった。
「フィン、大丈夫?しっかりして!」
私は仰向けに倒れる少年の肩に触れ、声を掛けた。
そのとき、つい先刻の会話が耳の奥で甦る。
【僕たちの仕事は、部屋に閉じ込められたあなたを守ること】
【だから、僕たちがしっかりしないとダメなんです】
【僕、ゼアさんみたいに強くなりたい】
この少年は私を守るために人間と戦い、そして傷だらけになって今ここに倒れている。時折ぐぅと呻いて顔を歪ませた。
すると少年が目を開ける。夕焼けのような深いオレンジ色と視線が交わった。
そして再び耳に届いた少年の声。
「…ごめんなさい…」
少年の詫びる言葉を聞いたその瞬間、胸の奥で何かがゆらゆらと揺れた。
私は息を飲む。身体が燃えるように熱い。
少年の傍らから立ち上がるとき、肩の付け根から何かが押し出されるような違和感を覚えた。
最愛の友にして最大の敵、人間。
その姿をキッと睨み付ける。
【君の本当の力を、人間に見せるんだ】
青年の言葉が木霊した。
そして。
「わああああああああああァっ!!!」
生まれて初めて叫んだ。
身体が宙に浮き、風のように人間の懐に飛び込む。
そこから先はほとんど覚えていない。
風を切る音。何かにぶつかる音。衝撃。
虚ろなオレンジ色が、脳裏に焼き付いて離れなかった。