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知ることと知らないこと・1


「 … … … たんだ」

遠くでこだまするように何か聞こえる。

「 … … 疲れたんだ」

しだいにこだまは近づく。
自分の耳にしかと届く。

「 … もう疲れたんだ」

声の主。
どこかで聞いたことのある、懐かしさ。
しかし思い出せない、その懐かしさを。
その声の主を。



「待って!!」



そこでいつも、夢は覚める。

タイピ「夢…だったのね」

悪夢はたびたび続いた。
懐かしさのある声が、遠くからこだまして
しだいに近づいていく。
その懐かしさというのが、何かわからないのだが。

タイピ「良かった、起こさなかったみたい」

自分の横で寝ている子供の落書き帳はすやすやと寝息をたてて
ぐっすり眠っている。
近くの時計を見てみると、時刻はまだ5時前だった。
もう一眠りして、悪夢を忘れて別の夢を見よう。
とてつもない明るい夢がいいだろうな…と思った。

「 … もう疲れたんだ」

またか、と内心呟く。
その懐かしさをまた感じる。
しだいに、憶測から確信へと。

「 … … 疲れたんだ」
タイピ「や、やっぱり、あなたは父さんね!?」

「 … … … たんだ」
タイピ「待って、まだ父さんには話し足りないことが…」




ガバッ。
毛布を突き飛ばす。
布団のじめっとした感触。
そうとう寝汗をかいていたらしい。
また時計を見る、6時くらいだ。
ふぅ、とため息をついて部屋のドアを開けた。


ガチャ。
ゆら「あら、早いですね」
タイピ「昨日、寝るのが早かったからね」
ゆら「休みなんでしょう? 寝ててもよかったのに…」
いつもゆら姉は早起きだ。仕事のある日も無い日もいつも早起きして
みんなの朝ごはんを作る。
今日も台所で卵焼きを作っていた。
タイピ「ねぇ、ゆら姉。父さんのこと、覚えてる?」
ゆら「父さんのこと…あんまり覚えてませんね。
   声と、あと後姿くらいしか…」

父さん、彼女らの父。
佐々木博史は、現在『公的な記録』では行方不明とされている。
詳細は不明だが、もうここにいるわけではないということだけは
分かっていた。

ゆら「……変な夢でも見てるんですか?」
タイピ「えっ?」
タイピはあたかも自らの心を盗み見られたように感じた。
ゆら「先週から結構、うなされてるみたいですけど…」
タイピ「父さんの夢、見てたから…かな」
ゆら「そうだったんですか」
そう言うとゆら姉は、食器棚のあるほうへ歩いていった。
食器棚から何枚かの皿を取り出して、突然

 「私もありました、けど大丈夫ですよ」

と、呟いたように言った。

ゆら「何枚か運ぶの手伝ってくれません? そこの丸くて…」
そしていつものゆら姉に戻った。
現実にいきなり戻され、少し驚きつつも、取って欲しいといわれた
皿を台所へ運んでいった。



落書き「おはよ〜……あれ、姉ちゃんたちは?」
ゆら「タイピは休みだからどこか出かけて、コンチェはもうすでに
   仕事に出かけましたよ」
タイピたちより数段遅く目覚めた子供の落書き帳は、洗面場へ歩いていった。

ゆら「あ、それと遅く起きてきた人にご飯はありませんから。
   私はこれから仕事があるので、行ってきますね〜♪」
落書き「ちょ、ちょっと姉ちゃん、私の朝ごはん〜!!」

こう見えてもたまゆら、実際意外と意地悪な性格なのだ。
顔を洗った落書き帳は、ため息を漏らしながら一人台所へ向かった。


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