V3のる頃に・その3


廃材を抜いたり折ったり投げ飛ばしていると、すぐに汗まみれの埃まみれになった。
トッカータ「・・・本気でやるなら・・・斧とかのこぎりとかがいるかもしれねえなぁ・・・」
ジェッ娘「もういいよトッカータくん!すごい汗だよ・・・・そんな・・・無理しなくても・・・いいよ・・・。」
トッカータ「ジェッ娘のためにやってるだけだ。気にするな。」
そういうとジェッ娘は言葉をどもらせゆでダコみたいに真っ赤になった。
あ、しまった・・・。ジェッ娘を犯罪者にしないために頑張ってるんだって言うつもりだったんだが・・・。
まぁいいか。

トッカータ「さすがに・・・休憩・・・・!こいつは手ごわいぜ・・・・!!」
俺は草むらの斜面にどかっと大の字になって倒れこむ。
ジェッ娘「ごめんねごめんね・・・すごい汗だく・・・。
     あ、あのさ、ちょっとここで休んでてね!私、家近いから。
     麦茶とか持ってきてあげるね!」
そしてジェッ娘はぴゅーっと駆け出していった。
ジェッ娘が走り去ったことを確認すると、俺は体を起こし、さっき見つけたものへ近づいていった。
それは紙紐で縛られた新聞や週刊誌で積み上げられたゴミ山だった。
さっきのが見間違えでなければ・・・・。たしか・・・この辺に積まれていたと思う。

あった。

それは雑誌を束ねて縛ったものだった。
過去数年分が順番どおりに重ねられている。
最近は物騒な世の中だ。バラバラ殺人事件のような事は後を絶たない。
そして、そんな事件に好奇心を寄せる大衆だって大勢いる。
ならば載っているはずだ。どこかに。
手早く梱包を解き、雨で張り付いたページを器用にこじ開け目次に目を通す。
ない。次。ない。次。
事件がいつあったのかわからないのが痛手だった。
犯人も被害者もわからない。
分かるのはここであったということだけ。
時折顔をあげ、ジェッ娘がまだ戻ってこないかを確認した。

ジェッ娘も、ポプリも「知らない」といった。
だが、間違いなくそれはあったのだ。
・・・・サッカリンさんが嘘をついてない限り。
ジェッ娘もポプリも。「うん、あったね。」と一言言ってくれれば、
俺の妙な好奇心も収まったのかもしれない。
ジェッ娘もポプリも口にしたくないような「事件」。
好意で隠してくれていることをわざわざ暴こうとしている・・・・。
そんな、友人たちへの背徳感があったからだ。

『ギタドラ・メドレー曲削除!バラバラ殺人!!』
・・・・あった!

特集記事は後のページで、巻頭のカラーページに写真が出ているようだった。
特集ページはがっちりと張り付いてしまって簡単に開かない。
そろそろジェッ娘が戻ってきてもおかしくない・・・焦った俺は諦め、写真ページの方を開く。
写真は黒ずんで分かりにくいが、白抜きの見出しはくっきりと読み取れた。

『ギタドラで悪夢の惨劇!リンチ&バラバラに削除!』
『被害者はメドレー曲。日ごろから粗暴な振る舞いでプレイヤーたちを・・・』
『日ごろの鬱憤が爆発?メドレー曲は見るも無残に・・・・』

・・・あったのだ。・・・・・・・やっぱりあったのだ。
事件の詳細は次のページから始まるようだった。
俺はためらいもなく次のページを開いた。

・・・・そこには・・・。

『犯人たちは被害者を鉈やつるはしで滅多打ちにして惨殺し、』
『さらに斧で遺体を2、3曲ずつ6つに分割』

見出しだけでも十分わかる、・・・・それは・・・あまりに無惨な事件だ。
普通、リンチってのは殴ったり蹴ったりじゃないのか・・・?
鉈やつるはしや斧で?こんなのはリンチですらない。
文字通りの惨殺、残虐殺人だ・・・。
何人もでよってたかって。
・・・・鉈・・・つるはし・・・・斧、で。

ドサッ
トッカータ「わああぁぁああああぁあッ!!」
ジェッ娘「きゃッ!、ごご、ごめんなさい・・・!!驚いたかな!?驚いたかな!?」
ジェッ娘もまた、俺の声に驚き、その手の斧をどさりと草むらに落とした。
ジェッ娘「さっきほら、斧とかがあると便利だって言ったじゃない?それでね、ジェッ娘、
     物置からちゃんと斧、持ってきたんだよ・・・・!!」
ジェッ娘は慌てふためきながら弁解と謝罪の言葉を続ける。
どうやら、俺は相当険しい目つきをしているらしい。
トッカータ「ご、ごめん・・・・、ちょっとオーバーに驚きすぎたかな。」
ジェッ娘「う、うぅん、・・・こ、こっちこそごめんね!・・ごめんね!」
トッカータ「最後の梁はその斧じゃないと壊せそうにない。せっかく持ってきてくれたんだし。
    ・・・・明日借りるよ。もうすぐ日が落ちるし。な?
    ・・なにしょんぼりしてるんだよ。明日には山崎くんが掘り出せるんだぜ?」
ジェッ娘「そうだね。あははは!速く山崎くんをお持ち帰りしたい〜!」
そして俺はジェッ娘の持って来てくれた麦茶で喉を潤すと、
すっかり冷えてしまった汗を拭き、帰路についたのだった。
脱いだ上着にくるんで隠した雑誌が、今はとても後ろめたかった。

ある日、スウィートちゃんはなんとスタッフに呼び出された。
スウィート「・・・・お待たせしましたです。」
トッカータ「スタッフに呼び出されるなんて面白くないよな。何かやったのか?」
落書き「失礼な!スイートはトッカータさんのような不良とは違うでございます!」
ジェッ娘「あはは。違うよトッカータくん。スウィートちゃんはロケテの実行委員さんなの。」
トッカータ「ロケテ?新しいオプションかなんかの?」
ポプリ「トッカータ、この前言ったじゃん。新バージョンのロケテだよ。V3のロケテ。」
ああ、そう言えば今度の休みから各地でロケテが始まるって言ってたな。
ジェッ娘「みんなで行こ。当日は迎えに行くからね!」
曲は強制参加だろと突っ込みたくなるが、誘い合ってじゃないと行く気がしないし、
それにこのメンバーなら退屈しないだろうな。
ポプリ「退屈どころか!今年もやるぜッ!!」
ポプリが全員を見回しそう宣言した。

一体何が始まるってんだ?
・・・ポプリの様子からみるに、おそらく・・・・。

ポプリ「我が部の風物詩ッ!!露袈手四凶爆闘!!」
トッカータ「セ、センスねぇーッ!!なんだよそのネーミング!」
ジェッ娘「・・・・ジェ、ジェッ娘はかぁいい名前だと・・・思うけどなぁ・・・・。」
鋭く却下しようと思ったが、取り合えずジェッ娘が幸せそうなので無理に否定しないでおく。
スウィート「・・・トッカータもいますから、今年は五凶爆闘になりますです。」
何事もなくスウィートちゃんが訂正する。
トッカータ「で、この仰々しいネーミングの部活動とロケテがどう結びつくんだ?」
落書き「をっほっほ!日頃部活動で培った実力をご披露するのでございますわ!」
ポプリ「その通り!日々の厳しい試練を乗り越えた精鋭中の最精鋭たる我々の実力を・・・!!」
ジェッ娘「でも去年はスタッフさんに怒られたし・・・。今年は迷惑をかけないようにしないとね。」
スウィート「・・・つまりV3の見学しながら部活動をするわけです。」
・・・例によってスウィートちゃんだけが、的を射た説明をしてくれる。
なるほど、俺たちのあの騒がしさをロケテ会場で「発表」するわけか。
そりゃあ、ジェッ娘のいうとおり、スタッフにも怒られるだろうな。
ジェット娘「あはは・・・でも楽しいんだよ!」

ロケテの日はもう、すぐそこだった。


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