V3のでる頃に・その7
その写真には、サッカリンさんが写っていた。
??「では、こちらの女性はわかりますか?」
トッカータ「・・・えぇと、名前は知りませんけど、昨夜、サッカリンさんと一緒にいた女性です。」
名前こそよく知らなかったが、ギタドラの曲であることは知っていた。
??「この二人に最後に会ったのはいつですか?」
トッカータ「ロケテ終了後、一緒に話をしました。・・・二人とも仲良さそうでしたよ?」
??「何か気になったこととかありませんか?なんでも結構です。話してください。」
こう根掘り葉掘り聞かれると正直困る。
・・・この頃には、俺も色々見当がついていた。
トッカータ「サッカリンさんたちに・・・何かあったんですか?」
その問いかけに答えはなかった。
だからこっちも同じく、それを沈黙で返してやることにする。
・・・・・長い空白時間ののち、彼はようやく口を開いた。
??「トッカータくんは最近参加されたばかりなんですよね。
・・・・・・ご存知でしょうか。例の・・・・コンマイさまの祟りについて。」
心臓がどくんと跳ね上がる。
隠し事の下手な俺のことだ、たぶん表情に出してしまったことだろう。
??「トッカータくんは・・・その・・・祟りとかを信じていますか?
率直なところで結構です。」
トッカータ「信じてません。」
即答だった。
それには信じてないというよりも、信じかけているからその疑念を晴らしたい
という感情の方が強かった。
??「本当に、ん〜、ならよかったです。」
トッカータ「信じてなかったら何なんですか?俺、仲間を待たせてるんで
あまり時間取れないんすけど。」
??「SACCHARINE SMILEさんは昨晩、削除されました。」
頭の中が真っ白になる。
・・・・・サッカリンさんが・・・・どうしたって?
??「よりにもよってね、お亡くなりになられたのが昨日なんですよ。
つまりロケテの日・・・・トッカータくんにはどういう意味があるのか、
わかりますよね?」
つまり・・・・今年も・・・・・コンマイさまの祟りは・・・!
??「SACCHARINE SMILEが削除になられたことはまだ内緒です。
どうしてかは、なんとなくお分かりになりますよね?」
トッカータ「(・・・わかりたくもない。)・・・一体、何があったんですか?」
??「特異なんですよ・・・・・・ギタドラの曲にはちょっと刺激の強い。」
もったいっぶった言い方だが、その先を聞くのに一瞬、躊躇した。
俺は、無用の好奇心で知らなくてもいいことを無理に知り、その結果、後悔してきた。
これから聞こうとしている話にも、そんな気配が感じられる。
??「最初に発見したのは見学を終えて帰還中のうちのスタッフでした。
時刻は22時5分。場所は、ギタドラV3の中で倒れているのを発見しました。
みんな始めは轢き逃げされたものだと思っていました。
ですが、意識を確かめるために近づいたスタッフはすぐに異常に気づきました。
・・・喉がね、引き裂かれていたんですよ。」
トッカータ「・・・・ナ、ナイフとか・・・!?」
??「いいえ、爪でした。それも自分の爪でこう・・・ガリガリと。」
男は首に手を当てて真似て見せた。
つまり・・・・これは他殺じゃなくて・・・・自殺なんだ。
??「薬物を疑いましたが、そういう類のものは検出できませんでした。」
トッカータ(でも・・・・これ自殺なのか!?・・・こんな尋常でない死に方、 聞いた事も無い!)
??「検出の結果、手の傷と付近に落ちていた角材が一致しました。
周囲にも叩いた跡や散乱した血痕が。
体にも本人に寄らない外傷が幾つか発見され、
つまり・・・サッカリンさんは何者かに暴行を受けた可能性があるということです。
外傷の部位から見て、複数犯の可能性もあります。
死亡推定時刻は18時から21時頃のようです。」
つまり・・・ロケテで俺たちと別れた後すぐなのだ。
トッカータ「(そう言えば・・・サッカリンさんは女の人と一緒だったはず。)
女の人・・・・・彼女は!?」
??「行方不明です。出勤もしていませんし、昨夜は自宅にも帰っていません。
・・・事件に巻き込まれた可能性が高いようです。
我々もあらゆる面から捜査を進めますが、
曲たちはコンマイさまの祟りの話になるととにかく口が重くなる・・・。」
トッカータ「・・・だから、俺なんですか?俺がギタドラオリジナル曲じゃないから・・!」
??「・・・サッカリンさんは奉納演舞の際カメラでバシャバシャ撮っていたから
バチが当たったという話になっています。」
トッカータ「サッカリンさんにコンマイさまのバチが当たるわけがない・・・!」
??「私もそう思います。・・・・・つまりそういうことですよトッカータくん。
祟りを信じていないギタドラの曲の協力が必要なのです。わかりますね?」
トッカータ「でも、俺に協力できることなんか何も無いですよ。
あの晩のことは何も知らないし・・・。」
??「いえいえ、何か気になるものを見たり、聞いたりしたら教えてくださればいいんです。
物でも、人でも、噂でも、何でも結構です。・・・・これ、私の電話番号です。
不在でしたら出たものに伝言してくだされば結構です。」
電話番号の書かれた紙を、受け取るのに躊躇した。
これを受け取れば・・・・否応なく俺は当事者になる。
??「SACCHARINE SMILEさんの無念を晴らすためにどうか、
ご協力をお願いしたいのです。」
そうだ・・・・俺は何を躊躇する?
・・・仲間を殺した犯人を、見つけなきゃ!
力強く受け取ると、男は満足そうに笑い、一気に表情を険しくした。