コクピの苦い思い出(2)
日記の最初のページには兄貴のプロフィールが書いてある。
名前:cockpit(通称コクピ)
誕生:drummania9thMIX&GUITARFREAKS10thMIX (Extra)
…………
その他諸々が質問形式に並んでいる。結構まじめに答えているみたいだ。
そうして俺は眺めているうちに1箇所黒く塗られた場所に気づいた。『好きな人』の欄だ。
どうやらここには誰かの名前が書いてあったらしい。
だが、かなり念入りに消されてて読めない。
仕方が無いので、ページをめくって本文を読み始めた。
『今日は9&10の稼働日。なので俺は曲たちに挨拶回りをした。
みんな個性あふれる曲たちだった。
そして稼動して、俺も早速仕事に入った。
中でもプレアンのタイピの仕事っぷりは凄かった。
アンコールのDD5に指摘されなかったら、ずっと彼女を見続けてたんだろうか…?』
ミラージュ「おいおい、この頃からもう目をつけてたのか…」
俺はそんな事を呟きながらしばらくページをぱらぱらめくって流し読みした。
決して文才があるとはいえない兄貴だが、それなりに思った事を素直に書いている。
そこで俺はある異変に気づいた。あるページだけが水に湿った後のようにしわくちゃな事を。
雨に降られたのなら全ページがこうなってるはずだ。ジュースでもこぼしたのだろうか?
気になりつつもそのページを開けてみた。中には短く3行でこう書かれていた。
『タイピとアニュスが付き合い始めた…。
嬉しい事だ。曲同士仲良くやってきたことの証拠なのだから。
でも…何故だろう…俺の胸のうちが苦しい…』
アニュス…正式な名前はAgnus Dei。9&10のもう1人のExtra。そして…タイピの彼氏。
その瞬間俺は気づいた。あの黒く塗りつぶされた欄に何が書かれてたのか。
『Timepiece phase
II』…よく見れば長さ的にもピッタリだ。
どうやら兄貴は彼女をただのツルペタロリッ娘とは思ってなかったらしい。
だからあんなに怒ったのか…。確かに自分の好きな人をそう言われては腹が立つ。
どうやら兄貴は、涙を流しながらこの文章を書いていたのだろう。
…だが、ますます謎が深まる。タイピのどこが兄貴にとってよかったのか。
こればかりはやはり兄貴に聞かないと分からないのだろうか…?
…待てよ、エキストラ部屋の奴らは基本的に仲が良い。
だが、タイピやアニュスにそんなこと兄貴が言ってるはずがない。
…だとすれば、残りはMODEL DD5…。
DD5…彼は自分の顔にコンプレックスを抱いていた。
…もしかしたら傷ついた兄貴と彼は話が合うかもしれない…
もしそうならば、自分の胸のうちを打ち明けてるかもしれない。
そう思った俺は、もう暗くなりかけだったが、DD一家の所へHSMAXで行った。
デケデケン デン デン デデン(インターホン)
ミラージュ「すみませーん」
FT2M「はぁーい…ってミラージュ君じゃないの」
ミラージュ「おう、FT2M。そっか、お前もここに住んでるんだったな。奇遇だぜ」
FT2M「あら、私の顔は職場だけじゃ見足りないの?いつも私を見つめてるくせに?」
ミラージュ「うるさい。…まあ、いいじゃないか。で、DD5さんいるか?」
FT2M「ちょっと待っててね。…あっ、ミラージュ君も上がりなよ。外寒いわよ?」
ミラージュ「ありがと」
333秒後、DD5がやってきた。そこで俺は今日の出来事を話した。
…………
DD5「…まあ奴ならそうするだろう」
ミラージュ「それで兄貴の日記も見たんですが、結局分からなくて…。
なので教えていただけませんか?9&10時代の兄貴を」
DD5「…分かった。少々長くなるぞ」