コクピの苦い思い出(6)


俺は結局自分の出した結論に十分納得がいかないまま、ささきっさに着いてしまった。

百「いらっしゃいm……!」

するとどうした事か、いきなり周りの空気が変わってしまった。
俺たちが訳も理解できぬままに、突然こう叫ばれた。

百「どうしてこんな時に来るのよ!帰ってちょうだい!」
蒼「もう、勘弁してよ…。これ以上店を荒らしたくないのに…」
落「どうせ言いたい事は分かってるんだから、覚悟はできてるんでしょうね?」

一体、この人たちは何故機嫌が悪いんだ…?しかもこんな日に限って…。
俺は兄貴に日を改めよう、と囁いたが、兄貴は聞く耳を持たなかった。

コクピ「…待ってくれ!今日はいつもと違うわけで来たんだ!
   ……ちょっとタイピに会わせてくれないか…?少しでいいから…」
百「そんなこといって、タイピに何かする気なんでしょ」
蒼「もうお願いだから、私たちの家族に近寄らないでよ…」
落「もう!いいから早く帰って!」
コクピ「そんなんじゃない!頼むk…」
スッ
コクピ「お、おい…!?」

俺はいてもたってもいられなかった。言葉で言えないほどの怒りが俺を突き動かした。
兄貴が必死に頼み込んでるのに聞く耳をもたない3人に対する怒りが。
…何故不機嫌なのかは知らないが、だからってこんな扱いを受けるなんて…。

ミラージュ「あんたらは…俺の兄貴に…なんて事を言ってるんだ…。
    兄貴は必死な気持ちでここに来たのに…それをあんたらは…。
    そこまで会わせないなら…力ずくでも…会わせてやる…!!」
-赤OP+SRAN発d
コクピ「やめろミラージュ!!!」

兄貴の怒鳴り声で、俺は体が動かなくなった。まるで何かに縛り付けられたかのように。

しばらく、誰も動かなかった。その間、俺は深い後悔の念にあった。
何やってるんだ俺は…。最悪の状況にしちまったじゃねえか…。

コクピ「…分かった。だったら、無理に会おうとは言わない。
   ただ、俺が話す言葉を伝えてくれるだけでいい…」

ささきっさの3人は全く動かず話を聞いていた。
…その時、かすかだが奥の扉から誰かがこっちにやってくるような足音が聞こえた。
しかし、俺の聴力は隣から現れた別の誰かの声の方に注意を向けてしまった。

ゆら「いいですよ。ちゃんと伝えてあげますから、話してください」
蒼「ゆらさん!?もう大丈夫なの!?」
百「ゆら、油断しないでよ。何せコクピはあいつの兄弟なんだから…」
ゆら「私は大丈夫です。それより、彼の目を見てあげてください。
   いつもとは違う目をしてると思いませんか?
   彼は真面目なんです。せめて話ぐらいさせてあげましょう」
落「で、でも!」
ゆら「い い で す ね ?」
3人「ハイ、ワカリマシタ」

俺は全く話の流れが掴めなかった。もう大丈夫…?あいつの兄弟…?
だが、とりあえず兄貴の話を聞くことの了承は得られたみたいだ。

コクピ「ありがとう…。感謝するぜ…。俺が伝えたいのは…タイピへの『想い』なんだ…。
   10&11の引継ぎ前に言った俺の言葉は、本当にあの時伝えたかった事とは違うんだ。
   俺、あんな肝心な時に緊張しすぎて、あんな事言っちまったんだ。本当に悪かった。
   でも今なら言える。…俺が本当に言いたかった事が。
   やっぱり、これを伝えずには、もう俺はやっていけねえんだよ…。
   …タイピ、俺はお前が……大好きだった。…いや、今でも大好きなんだ。
   だから、お前には、ずっと幸せでいて欲しい。…どんな形であろうともな」

兄貴が話してる間、誰も口を挟まなかった。それどころか、音すらも全く聞こえなかった。
……ただ、唯一聞こえた音は、扉の向こうからの、一瞬だけの啜り泣きの声だった。

ゆら「…そうですか。あなたの気持ちはよく分かりました。
   でも、それはもう私たちが伝える必要はなさそうですね」
コクピ「…!?この言葉を伝えてくれないのk」
ゆら「だって、もう本人が聞いているんですもの」
一同「えっ?」
ゆら「タイピさん、今日ぐらい我慢せずに人前で涙を見せたっていいじゃないですか。
   私が逆の立場だったら、有無を言わずに彼の前に姿を見せますよ」

そう言い終わるか終わらないかのうちに、タイピがあの奥の扉から飛び出してきた。
そして、兄貴の元へ駆け寄り、兄貴が何も言えないまま彼女はその胸に飛び込んだ。

コクピ「お、おい!?」
タイピ「ばかぁ!何でそんな大事な事もっと早く言ってくれなかったですか!
   私は…コクピのことを…ただのロリコンだと勘違いしてあんな酷い事を…!
   私の、あれから今までの時間、どう責任とってくれるんですか!」
コクピ「…本当にすまなかったな…。お前にそんな思いをさせてるなんて…。許してくれ…」
タイピ「……………です……」
コクピ「…何だって?」
タイピ「早く私を抱きしめろです!せっかく大好きな人に抱きしめられてるのに、
   抱きしめ返してあげないなんて…どういう神経してるですか!」
コクピ「…いいのか?お前には俺なんかよりもっと大切な人がいるんだぞ?」
タイピ「今だけは…構わないです…。さもないと…私はコクピをずっと許さないですよ…」

兄貴は、甘く強く優しく彼女を抱きしめ返した。兄貴の目から、一筋の涙が落ちていた。


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