Little Courage・その6


また同じ時間。
同じ公園にて。
今日もまた一段と空が綺麗だ。
昨日は雨がザーザー降りで、その翌日であるために
空がとても澄んで見える。
青々とした空は、下から見上げる彼と彼女にとっては
どこまでも続くように見えた。
もちろん、彼と彼女とは。

DD7「いい天気ですね」
落書き帳「ホント、昨日の天気には比べ物にならないわ」

彼はDD7、彼女は落書き帳である。
彼女は、家であった一連の出来事を彼には話していない。
DD7に余計な心配をかけたくないと思ったからだろう。
もうかれこれ、こうやって朝に会うのも何度目になるだろうか。
最初のうちは、早朝だからどこの店も開いてないし、
何より相手が相手という考えだったのだが、
しだいにその考えは薄れていった。

落書き帳「…ねぇ、なんか…眠くなって…」
DD7「ど、どうしました!?」

落書き帳はバタンと倒れてしまった。
振り返ると、背の高い二人くらいの男がいた。

DD7「誰ですか、あなたたちは!」
 「黙ってろ」

DD7は男から右パンチをもらう。
彼の軽い体は吹っ飛ばされる。

DD7(よく分からないけど、赤状態になって
    逃げよう!)

ベーシック! ベーシック! ベーシック!

DD7(…緑のまま? え、あれ?)
 「アイツの言った通りだ、オマエは赤状態はおろか、黄も無理だ」
DD7「なんでだ!? なんで赤になれない!?」

曲には難易度がある。
赤、黄、緑というのは俗称で、正式な名称はあるが
実際にはほとんど色で統一されている。
難易度は低い順番に、緑、黄、赤となっている。
曲は難易度が高ければ高くなるほど、本来の力が出せる。
が、緑状態では本来の力がほとんど出せない。

 「騒がれると面倒だ、黙ってろ」
DD7「!」

気付いた瞬間には、腹に男の拳が入っていた。
そして、彼の意識はプツリと切れた。





その時間帯、別の家にて。
現在、公園で起こっている事件とは全く関係ない人物。
泉氏の曲、RISEとFIREがいた。

FIRE「RISE、知ってるか?
     白昼夢シリーズの奴らはな」
RISE「兄弟全員何かしろ強い能力持ってる、だっけか?」
FIRE「…先に言うなよ、つまんねーな」

家の居間で、お茶をすすりながらテレビを見ている。
本日休日、こうやって予定もなくただこうしてテレビから流れる
くだらない笑い声とやり取りを見ている。

RISE「あんま覚えてないけど、たしかDD2は…
     そうそう、すごく聴覚が優れてるって聞いたな」





DD兄妹家にて。

DD4「DD7、どこ行ったの?」
DD5「玄関にDD7の靴は無いから、外に出たってことだけは分かるけど…」

朝からDD7がいなかった。
それだけならまだよかった。
今現在の時刻は13時。
もうすでに昼を過ぎている。

DD2「…兄さん、何か知ってるでしょ?」
DD「どうした?」
DD2「兄さんの心臓の鼓動が早くなってる。
    何か隠し事してるね? 兄さん」

DD2は聴覚が優れているというのは
人より、という意味ではなく
尋常でなく優れているのだ。

DD「…RISEのおっさんから聞いたんだがな」

DDはこれまでRISEから聞いていたことを話した。
DD7がプログレんとこの落書き帳と仲良いってこと。
あまり余計な考えを増やしたくないために
DDは他の人たちに一切話していなかった。

DD5「そういうことだったんだ」
DD6「DD2、どうしてアイツがこっそり外出て行ったことに
    気付かなかったの?」
DD2「寝るときはいっつも耳栓してるから、気付かなかったんだ」

聴覚が尋常でなく優れているということは
逆に言ってしまえば必要ない音まで聞こえるのである。
そのため、DD2はしばしば出かけるときは
消音ヘッドホンなどをつけている。
実際にはあまり効果が無いらしいが、少なからずとも
つけないよりはまだいい、と本人は語っている。

DD3「アイツの携帯、無いぞ」
DD4「持ってったみたいね」

DD7の部屋から出てきたDD3が言う。
肩越しに見える部屋は、DD3がかなり荒らしたようにも見える。

DD「DD2、アイツの携帯鳴らしてみるから
   ちょっと頑張ってくれないか?」
DD2「わかった」

自宅の電話の受話器をとる。
コードレスの電話は無く、DDがDD7の携帯の番号を
一つ一つ置いていく。

DD6「……本当にできるの?」
DD4「黙ってなさい」

電話のベルがかすかに聞こえる。
部屋は誰しもが静まり返っていて、ただ一人
DD2だけがとてつもなく真剣な表情をしている。
しばらくして、DDが受話器を元に戻した。

DD「繋がったけどきれたぞ。
   聞こえたか?」
DD2「…多分、ギタドラ倉庫街のところの近くだと思う」
DD5(おいおい、マジでわかんのかよ、オイヨイヨ)
DD「わかった、DD3、走るぞ」
DD3「へいへい」
DD「途中ではぐれても知らんからな、しっかりついてこいよ」

DDとDD3は玄関のドアを開けて
あっという間に視界からいなくなってしまった。

DD4「相変わらず速いわね」
DD5「俺達も車出して追いかけないと」
DD4「DD6、あんた留守番ね」
DD6「…はい」

年上の命令は絶対。
白昼夢兄妹、最大の掟でもある。





RISE「んで、DDとDD3は身体能力が優れているんだっけか」
FIRE「話を聞くとまるで『サイボーグ009』だな」
RISE「親父の奴、もしかして狙ったんじゃねーのか?」

緊迫した状況の続く白昼夢の兄弟に反して
のんびり昼間のクイズ番組の再放送を見ている二名。
実際、いるのは三名だが。

RIGHT ON TIME「面白い話してるじゃないの」
RISE「ライトンの姐さんか」
ライトン「白昼夢兄弟のボウズ達の話ね」

彼女はRIGHT ON TIME。
ギタドラ界ではかなりの古参で、RISEよりも古くから
この世界に身を置いている曲である。

ライトン「DD4の嬢ちゃんは目がすごくいいらしいわね」
FIRE「本当にサイボーグの奴らみたいだな。
     誰か体内にミサイル埋め込んでたり、超能力でも
     持ってる奴がいるんじゃねーのか?」
RISE「そうなったら本当に『サイボーグ009』だな」



まだ日も高く上っている中。
一人だけ、戦う人がいた。
そう。

DD7だ。


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