Little Courage・その8
落書き帳「ちょっと、どうなってるのよ!」
DD2「ま、まぁ、落ち着いてください、説明しますから」
彼女の目の前の光景。
殴られ蹴られ、傷だらけのDD7。
脚がガクガクと震えている、今回の事件の張本人であるVOIDDD。
その二人を囲むようにしている、白昼夢兄弟たち。
異様としか言葉のない光景であった。
DD3がヴォイドに一つのパンチを与えたあと。
DD2「ちょっと待って!」
DD3「な、なんだ?」
DD2「実は、ちょっとした話があってね。
ああ、そこの人も、いいね?」
VOIDDD「……ァ…」
ヴォイドは殴られた痛みで、言葉を発するのさえも一苦労している。
DD2「…ということで、DD3、この人を運んで」
DD3「へいへい」
DD2「言っておくけど、拒否権なんてもの、はなっから無いからね」
DD2は、ヴォイドにそう突き放すように言い放った。
DD2「…いいですか、落書き帳さん。
あいつは、DD7はあなたを守ると『約束』したんです。
その約束を、あいつは最後まで守りきるんです。
僕や兄さん、他の人たちが手出ししてしまうと
あいつは、あなたに誓った『約束』を破ってしまうんです」
落書き帳「…その、ヤクソクって何なの?」
DD2「『あなたを守る、そのためなら、私は傷ついてもかまわない』という
単純な内容です」
落書き帳はしばらく口を閉ざしていた。
そして突然、鼻でフンと笑って、
落書き帳「バカな奴ね、それであんなひどい顔に…」
DD2「あいつの、小さな勇気を貫き通してあげたい。
だから、手出し『できない』んです」
落書き帳「わかったわ、なら、私も手出しはしないわ」
DD7の考えが伝わったのか、彼女は諦めたようだった。
DD「…DD6か、どうした?」
DD6『ちょっとさっきね、コンマイ社の中区のコンピューターに忍び込んだらさ。
何故か、DD7と落書き帳さんだけベーシック状態にしかなれないバグがあってさ。
修正しておいたよ、以上』
DD「……DD7、今のお前なら、まぁそいつを大気圏外にぶっ飛ばせるな」
DDの冗談は、小さな勇者の耳には届いていない。
VOIDDD「こうなりゃ、ヤケだ!」
ヴォイドはDD7に向かって走っていく。
DD7の右の頬に、ヴォイドの拳が当たる。
鈍い音と共に、DD7の向きがグイっと変わる。
だが、妙だった。
首から下は全く動いていない、動いたのは目線のみだった。
やがてDD7はゆっくりと視線を
ヴォイドに戻していった。
VOIDDD「なんだってんだよーッ!」
腹を蹴った、スネをも蹴った、顔も殴った。
なのにDD7は動じない。動かない。
DD7「どうしたの? それでおしまい?」
普段の彼からの声とは全く違う。
機械的に発せられるような、温かみが微塵たりともない声。
DD3(もしかして、俺たちが)
DD4(理不尽な要求を突きつけたりしたから)
DD5(いわゆる、マゾヒストに…)
DD(なったのか)
そんな彼を見た兄妹たちも、ほとんど感情を表していない。
むしろ、アメリカンジョークでも言い出しかねないと感じた。
DD7「じゃあ、ぼくからいくよ。 いいね?」
VOIDDD「く、来るな! 来るんじゃない!
俺が悪かった、だ、だだ、だから、許してくれ!」
――誰が許すものか。
―――お前は、ゆるさない。
――――ゆるさない。
ヴォイドに一歩、また一歩近づくDD7。
大魔人のように大きく、死神のように怖く。
ヴォイドはしりもちをつき、動けなくなっていた。
全身は震え、口はガクガクと音をたて、あまつには
股間が湿ってさえいた。
DD7「誰が、誰がゆるすものか」
VOIDDD「ヒ、ヒィィィィィィィィィ!!」
DD7が握りこぶしをヴォイドに向けた瞬間だった。
――――待つんだ!
心の中でもう一人、いや。
真実の一人が叫んだ。
そして、
小さな勇者は、その場にパタリと倒れてしまった。