知ることと知らないこと・5


ギタドラ市内のはずれにて。
まるで漫画に描いたような裏山。
ここではギタドラ市内を一望できるくらいの
高さであり、同じ高さなのは
コンマイ社のビルくらいだとか。
その裏山に、タイピはいた。

今まで、信じてきたものは何だったんだろうか。
行方不明になった、と聞いたときには
『必ず帰ってくる』と信じていたのに。
もうここにはいない、父さんは。
信じてきた何かが崩れていく。
――ずっと、いるんだと信じていたのに。
―――信じていたのに。

遠くから誰かやってくる。
影がしだいに大きくなってくるのを確認できた。
振り返ると、リースト姉がいた。


リースト「タイピ! 私、タイピに言わなきゃいけないことが…」
タイピ「一人にして…」

うつむいたままタイピは振り返らず、小さい声でそう言った。
リースト姉の後ろからまた誰か来ている。
ゆら姉、コンチェ、落書き帳、デパチャ、ボビス、イスト…。

デパチャ「タイピ! 良かった、ここにいたんだね」
コンチェ「探したのよ……」
イスト(だから最初にここを探せっつたのにさぁ)

皆、息をきらしている。
デパチャはタフなほうだったから、あまり辛そうな顔はしていないが
探し回って疲れているということがわかる表情を
皆していた。
ゆら姉も、リーストも、コンチェも、落書き帳も、デパチャも、ボビスも、イストも。



ゆら「ごめんなさいね、リーストがあんな遠まわしな言い方して」
タイピ「…え? 父さんは死んで」
ボビス「縁起の悪いこと言わないでよ、タイピ」
コンチェ「父さんは死んでなんかいないよ
     ただ、今はもうコンマイにはいない、ってことだけ」
タイピ「……私、私」
リースト「ほらほら、もう泣かない! 泣いてちゃだめだよ」
ボビス&イスト(泣かした原因はあんただろ?)

今までうつむいて、ただ何か押さえきれない負の感情から
必死に耐えていたが、ここでついに泣き始めてしまった。
自分の勘違いで、自分の父は死んでしまったと思っていた。
そうと知った瞬間の感情に耐えていた。

ゆら「私も何年か前に、同じようなことがありましたからねえ。
   あの時、『嘘でした〜♪』って言った瞬間、あれほど
   リースト姉さんを恨んだことはありませんでしたねえ」
リースト「ま、まあ、ね。 うん、タイピも見つかったことだし、帰ろうか、ね?」
ボビス&イスト&デパチャ(お 前 が 言 う な よ)
ボビス(見る予定だった番組録画予約しとくの忘れたじゃねーかよ)
イスト(二週間ぶりの有給休暇だったのに…)
デパチャ(コンマイの人たちよりも人使い荒いよこの人……)

コンチェ「これ見てよ、タイピ姉ちゃん」

コンチェはタイピに一枚のチラシを渡した。
黄色を基本とした明るい色調のチラシだ。
チラシの一番上には、大きく『BEMANI EXPO』と書かれている。



コンチェ「ほら、ここのナンバーズプロファイル…下のところに書いてあるでしょ?」
タイピ「あっ…」

そこには小さい文字で並んでいた、このイベントの
参加メンバーの中に、しっかりと書いてあった。

『佐々木博史』

その横に、後姿でありながらも、小さく写っていても。
彼女の父の姿がいた。

タイピ「父さん…」
落書き帳「コンマイ社のTOMOSUKEさんが言ってたよ。
     父さん、とっても楽しそうだったって」
タイピ「思い出してきた、父さんのこと。
   背が高くて、メガネかけてて…
   褒めちゃうと逆に落ち込むくらいの人で…」

リースト「今日はボビスやイストも来た事だし、晩御飯は
     量多めにしよっか!」
ゆら「みんなで食べるご飯は美味しいですからねぇ」

ちなみに、この二人の台詞には
ボビスやイストをこき使ってやろうという意味もこめられているのも
忘れてはいけない。

誰かの携帯がなり始める。
デパチャの携帯だったようだ。

デパチャ「あ、もしもし? αρχηさん?
    本当ですか? 分かりました、今すぐ行きます」
ボビス「おい、何の電話だったんだ『幸せ者』さんよ?
デパチャ「アルケーさんが今日食事でもどうですか? って誘ってきt」

イスト「良かったなぁ、『幸せ者』さん」
コンチェ「楽しんできてくださいね」
落書き帳「ラブラブ(仮)? ラブラブ(仮)??」
ボビス「アルケーサン、カワイカッタヨネー」
リースト「ふむ、我が血筋の人にも春の到来というわけか、うんうん」
ゆら「若いっていいですね、青春ってイイデスネ〜。
   あ、私まだ×○ですよ? まだ私だって若いですよ??」
タイピ「もう、みんなデパチャが可哀想でしょ?
   私も何か言ってあげなくちゃ…
  
   えっと、あの、そのね?

   嘘……じゃないの?」
デパチャ「みんな、ひどい…」



いつの間にか、この場に笑いの空気が流れていた。
和やかで、穏やかで、優しく、面白い空気が。
久々にギタドラ市内に帰ってこられて休みたかったリーストも、
仕事から帰ってきたコンチェとゆらも、
遊び相手がいなくてつまらなかった落書き帳も、
皆の酷さを味わったデパチャも、
先に春をこされたボビスも、イストも。
無論、タイピも。

最高の『休暇』となった。



所変わって、ギタドラ市内某所の喫茶店にて。

泉「で、話って何ですか? 『佐々木博史』さん」


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